「全く、無理しやがって・・・」 このセリフを言うのは何度目だろうか?キョコを寝かせて簡単におかゆを作ってやり、冷ましながら口に運んでやる。実際・・・熱が40度近くあったのだから安静にさせないと。 「ごめんねぇ・・・」 本当に申し訳なさそうにキョコが謝る。 「そんなん気にするな」 ・・・結局講義はサボる事にした。まだ1回も休んでない講義だから大丈夫だろう。健もとってるからノートかプリントか見せてもらえばいいし。一応、メールを送っておく。 『悪い。今日の講義のノート頼むわ。』 『えー、理由を3文字以内で述べよ!』 『看病だ』 『誰の?』 『キョコ』 『風邪ひいたのか?』 『40度』 『あちゃー、分かった。お大事に』 『はいよ』 最初のメールがむかついたから全部3文字で応えてやった。 「ほんと、理解力のある親友を持つと辛いね」 「でも、優しいですよね、健さん」 「いや、分かってておちょくってるんだ、あれは」 「長い付き合いっていいなぁ・・・」 「お前もいるだろ。幼馴染とか」 「いやぁ・・・、もう全然会ってないから・・・」 「あぁ・・・、初恋のって言う」 「ちょっと会いたいなーとは思うけど・・・。でも、今はいいの」 「そ、そう?」 軽く妬いてしまった。 「今は・・・、せんせーがいるから、ねっ」 「あいやぁ・・・」 そうまじまじと見つめられると照れますってば。実は、キョコの瞳が好きだ。くりくりっとしてて。その目に見つめられると照れる・・・。 「とりあえず、お前は寝とけ」 「ええ・・・」 「大丈夫。今日は一日居てやるから」 「うんっ」 この笑顔を横で見れるだけで幸せだ。今日は本当に一日ついていてやろう。 ──夕方。 「お、だいぶ熱も下がったみたいだな。よかったよかった」 体温計を確かめると、37度まで下がっていた。夜はちょっと上がるだろうけど朝には平熱くらいに戻るだろう。よく寝ていた。・・・俺も昼寝してた。 「せんせー、ほんとにありがとう」 「よせやい。俺も暇人なんだ」 照れ笑い。キョコが頬にくれたキスがまたいっそうに照れの原因を増やす。 「感謝とお礼とお詫びだよぉ」 いや、そうまじまじと見つめられると、ね・・・。 「さて、そろそろ夕飯か、どうしよう?」 母親には何も言っていない。というか何も言う必要はないが。今のキョコを見ると外に連れ出すわけにも行かないし、やはり俺が何かこしらえるべきだろう。何を作ろう・・・。 「何か食べたいものあるか?」 「得意なのでいいよぉ」 だから、料理自体そこまで・・・。得意とかないんだって!料理は母親にかる〜く教わった。あと、キョコと一緒に作った事があるくらいだ。自分1人でまともに食えるものを(しかも人様が)作れるかと言うと自信がない。やっぱり口に合う味付けとかあるだろうし・・・。 「お料理の本なら、本棚にあるから、見ていいよ」 俺の考え読んでましたか。と、とりあえず頑張ろう。 キョコは和食が好きだったはず。だから和食を・・・肉じゃがだ!どうだ肉じゃが!冷蔵庫を確かめる──ない・・・。 「キョコ、すまん、買い物行ってくる」 「あぁ・・・。買い物行ってなかったの。ごめんね・・・」 「あーいや、大丈夫。近くにスーパーあったよな?」 「駅前の東通に商店街があるよぉ」 「分かった。負けてもらおう」 「あはははっ。ちゃっかりしてるんだからぁ」 「そりゃ当然!まぁ、ゆっくり寝てろ」 「はぁ〜い。行ってらっしゃいませ。あ・な・た」 たははは・・・。新婚ごっこか。照れくさい。でも、悪い気はしないな。 ──東通商店街。 「おーやってるやってる」 夕飯の買出しに来た中年女性(普通に『おばちゃん』だが)で賑わっている。肉とじゃがいもとにんじんと・・・いとこんにゃくと・・・タマネギ。OK。あと調味料とかは一式揃ってたよな。冷蔵庫の中身は、ほんと何も入ってなかった。ポカリスエットが入っていたな。水分補給の為に俺が買ったのだ。 「あ、こっちの方が肉が安い」 結局、2人分しか作らないのだから、ある程度の量で安いものを選びたい。俺って主婦(夫?)向きか? 「すんませーん。これくださーい」 「はいよ!」 気合が入ってるなーと思いながら、安いほうの肉にする。 「見かけない顔だなー」 「え」 「いつもだったらこの時間は女子高生の子が来るんだけどね」 「そうなんだ」 「いい子でねー。ほんといい子でねー」 2回繰り返す辺り、相当評判がいいんだろう。 「キョコちゃんって言ってね。ほら、お釣り」 「あ、すみません」 思ったとおりキョコだった。なんだか自分が言われてるみたいで照れる。 「そんじゃ」 「また来てくれよ」 キョコの話聴けるならいつでも来ます。 しかし・・・、夕方の商店街があんなに騒がしいとは思わなかった。20年以上生きてきて、滅多にこういう買い物に付き合うことなんてなかったからなあ・・・。まあキョコの話も聴けたし、目的のものも安く手に入ったし、よしとしよう。 さ・・・帰るか。 「ただいまー」 「お帰りなさい。待ってたよぉ〜」 キョコに抱きつかれて帰宅。 「ってお前!身体熱いじゃないか!」 「ううん〜・・・」 「ちょっと待ってろ。なんか冷やすもの・・・」 やっぱり熱があがったみたいだ。それより、待ちきれなかったのは分かるが、寝ておいて欲しい。迎えてくれるのは嬉しいが、体調の悪い時くらいおとなしくしてて欲しい・・・。 「とりあえず寝とけ」 「うん・・・」 少しだるそうだ。寝かしつけて氷枕を作ってやる。 「飯もすぐ作ってやるからそれまでおとなしく寝てろ」 小さく「はぁい」と肯き、布団に入る。 「お腹すいたぁ・・・」 「ああ、だからすぐ作ってやるから」 「うん・・・っ」 ちょっと笑顔になる。やっと安心できる。さあ、さっさと作ろう。 ちょっとワガママを言ってくれたのが少し嬉しかった・・・。 「ほんっと寝るときはよく寝てるなあ・・・」 寝顔は本当に可愛い。料理にかかる時間は1時間程度だが、さっき氷枕を作ってやったら、君チ良かったのか5分もしないうちに寝てしまった。 「おし、これであとは煮込むだけだ」 多分、我ながら中々な味だと思う・・・。けど味見をしてなかった・・・。 |