ひと夏の家庭教師



『ひと夏の家庭教師』


第12話






 「それで、どんな事が聴きたい?」
「最初の彼女の話聴きたいですっ」
口調は淡々としているが、内心興味津々である雰囲気を匂わせている。さすが、思春期の女の子。俺も関心ばかりしてられないけど・・・。

 最初の彼女・・・。あれはいつだっけ?高校入ってからかな、多分。何となく告白されて、別に嫌いとかじゃなかったし、好きな子もいなかったから付き合うようになったんだけど、半年も経たずに別れた。一応、することも一通りやって、それで、ちょっと冷めてきたかなーって時に「別れようか」ってなった。
「えー!呆気ないなぁー。ていうか冷めてるなぁ・・・。もっとエピソードとかないの?」
「どうだったかなー・・・。でも、俺って実際こんなだぞ?ちょっと白けてるってか、流れるままーみたいなところあるし。別れるなら別れる、何となく冷めてきたら別れる。こんな感じかな」
「それってちょっと寂しいですよー!絶対、寂しい!ウン、寂しいぞー」
何度も肯きながら次に何かあることを期待して『静聴モード』に戻る。

 次の彼女も似たようなものかな・・・。だいたい半年行くか行かないかで別れた。あ、そういえば、この彼女の時、彼女の元彼がちょっと絡んできて、でも、彼女が「大嫌い」って言ったら、すぐ帰ったな。それくらいだろうか。

「そうなんですかー。その元彼さんも可哀想に・・・」
その当時の『現彼』だった俺は無視かよ。
「でも、それだけせんせーのこと好きだったって事ですよね!その彼女さんが!」
また自分で言って自分で納得している。そうなのかな・・・。その辺の気持ちをあまり気にしたことがないから分からない。割といい雰囲気になると付き合うって形になり、ある程度冷めてきた頃にどちらかが別れを切り出す。こういうパターンだ。男と女の仲ってそんなものじゃないのか?結婚でもしない限り一生こうやって繰り返していくもんだと思ってる。もしキョコと付き合うことになったら?別れる・・・何か寂しいな・・・。これって何?恋?・・・・・・だとしたらいつから?キョコに出会ってから、いや、その表現は少々正確ではないな、キョコをひと目見てからか?もやもやする・・・。こういう感じは初めてに近い・・・。ああ、忘れていた。話を、続きを・・・

「あれ?」
いつの間にやら、キョコは居眠りをしている。しかも、しかも!!俺の膝の上で・・・。無防備にも膝の上で、自分の腕を枕にして眠りこけている。
「可愛いな・・・」
つい、呟いてしまう。そっと髪を撫でてみる。
 サラ・・・
「柔らかいな・・・」
髪以上にも気になるんだが・・・。肌だよな・・・。この頬の辺り・・・。柔らかそう・・・。実際、前にキスをした時に、軽く触れる程度だったのだが、こう無防備に目の前に曝け出されるとどこからか湧き出る欲にかられないこともない。いや、言ってしまえば『性欲』なんだが・・・。
「うーむ」
理性が吹っ飛ばされそうだ。目の前にはキスもしたことのある17かそこらの女の子。好意がある事も今までの話で何となく分かる。でもいいのか?本当に一線を越えて・・・。出来ることなら越えてみたい。でも、どこかで頑張って「させん」とする存在も俺の中ではある。以前なら、「好意がありそうな」そんな雰囲気になれば、相手がどうであろうと余裕で越えていた線が今は越えられない・・・。今、俺が抑えているのは何?キョコを妹として見ているということなのか?分からない・・・。これが本当に恋であるのか、それとも一時の感情の迷いなのか分からない。
「う、うーん・・・」
キョコが小さく寝返りを打つ。あ、いや、待ってくれ。そこは俺の・・・。少しだけ隆起した自分のイチモツに当たる。いや・・・その・・・
「気持ちい・・・じゃなくて!あぁ!気が変になる!」
と、呟く。大声で言ってしまえばキョコが起きてしまう。口以外、動かせないのが現状で・・・。
「あーこら、また動くな!微妙に刺激が・・・」
少しだけ自分じゃない別の手に触られてる感覚に囚われて、夢中になりそうに・・・。駄目だ駄目だ。考えるな考えるな!幾ら目の前、いや、膝の上には年が割りと近い年頃の女の子がいてもだ、まして2人きりでもだ!偶然起きた状況とは言え、だ・・・。誘惑に負けそうになる。この状況『ラッキー』だと奴は言う。健は。あいつなら、なりふり構わず襲ってる。いや、待て・・・。俺ってそういえば「抱いて下さい」って頼まれたよな?確かに・・・。だから、キョコは了解のはずだ・・・。
「って人が無防備に寝てるからって何を考えてるんださっきから・・・」
性である。どうしようもないこと・・・、って割り切れば許されるのだろうか?少しだけ疑問だが、今は手を出しては・・・。
 脳では理解できていても、体が、カラダが反対方向を向いているのがわかる。俺のカラダはどこへ?そして気持ちはどこへ?キョコにペースを乱されるのは、慣れてきたが、今は予想外大の事態・・・。
「可愛いよ・・・」
もう一度、髪を撫でる。ただ、撫でる。ゆっくりと、起きないように撫でる・・・。もう何時間も経ってるように思えた。時計を確かめる・・・。5分くらい?ちょっと汗をかいていた・・・。時間が長く感じるわけだ・・・。母親はまだ帰って来る様子はない。でも、そろそろ帰ってきてもいい時間だ。
「せんせ?」
「ん・・・?って、え?!」
いつの間にか、キョコが起きていたようだ。
「さっきからブツブツ言ってるんだもん・・・知ってたよ」
笑顔で上目で俺の目を見ながら言う。恥ずかしくて目を逸らしてしまう俺。照れるから本当に・・・。今、言われて初めて、自分が独り言を言っていたのに気がついた。ついさっき考えていたことが全部口に出ていたって事?それって・・・最悪・・・。
「せんせーなら、いいのに・・・」
軽いあくびを1つして、また自分の腕に崩れていく。実は、相当眠かったのか?自然と口がにやける。笑みがこぼれる?この際、どちらでもいいさ。『いつ恋が始まったか?』それも改めて、今から考えなくてもいい。きっと、今どうなるとか、どうしようとか・・・。
 今はただ、ゆっくりとこの穏やかな寝顔を見ていたいな、ずっと・・・・・・・・




第13話