─そして最後の家庭教師の日がやってきた─ 今日は家庭教師最後の日。キョコにこうやって勉強を見てやるのも今日で最後。これが終わったら、俺とキョコは、また、元のお互いを知らなかった生活へと戻っていく。 ─というのがこれから待ってるはずの未来。でも、自分次第で、どうにでも変わるはずの未来。俺は、このままでは終わらせたくない。終わらせたくないんだ。自分の気持ちをはっきりさせて、それを伝えるまでは、終わらせたくない。女々しいって言われるだろう。それでも、この想いは純粋だ。はっきりしてるかどうか、疑問に思うところではあるけど、それでも嫌なものは嫌だ。これっきりは嫌だ。健も言っていたが・・・、打ち上げって名目で、遊びに行こう。そこで告白しよう。告白すれば、もっと気持ちもはっきりするはず。中途半端?分からない。でも、大丈夫。うん、大丈夫だ。 大丈夫・・・だよな?キョコ・・・・・・ 「せんせー」 「ん?なんだ?」 「今日で最後なんですねー・・・」 キョコが寂しげに訴える、この瞳。これに応えてやりたい。 「あぁ、そうだな・・・」 勿論、俺も寂しい。今日で終わり・・・なら。 「せんせ」 「うん?」 「打ち上げー、しよっか」 思いがけないお誘いだ。本当は自分から誘うつもりだったのに・・・。同じこと考えてたんだ・・・。なんか嬉しいな。心がスッと軽くなっていく。今日はいけるぞ。きっと伝えられる・・・・・・確信した。 「ああ、俺も同じこと考えてた」 素っ気ないまでも、嬉しい気持ち一杯でOKを出す。 「ははっ。よかったぁ〜〜」 俺は、この笑顔が見たいが為に今まで生きてきたんだ・・・、と最近は切に感じている。これが本気の恋ってやつなのかな。胸が詰まるような想いってことなのかな。ずっと側にいて欲しい・・・。側でこの笑顔をずっと見ていたい・・・。 「せんせ?何、ボーっとしてるの?」 こうやって突っ込まれるのも板についてきたってのかな?そういう自分が笑えるよ、ほんと。 「さー、打ち上げの事はあと、あと。これ終わらせなきゃいけないんだから」 「はーいっ!」 今はまだ、先生と生徒だ。 「あ、悪い、メールだ」 え・・・。送り主は『健』となっている。あれほど、家庭教師やってる時間には、携帯鳴らすなって言ってあるのに・・・。 「いいですよー。こことここをやっておけばいいんですよね?」 「わりぃな。ちょっと長いメールみたいだ」 「いってらっしゃいっ」 普段は無視するメールなんだが・・・。このタイミングで送ってきたからには何かあるんだろうか?いや、あいつのことだから分からない・・・。でも、今回が初めてだぞ、家庭教師の時間中に送ってきたのは。それに、件名が・・・、 『今日は決めろ』 ちょっと待てよ!1週間前に電話で色々言われた。俺はボーっとしていて「うん」くらいしか言ってなかったと思う。正直、あんまり覚えてない。健が言っていたことはなんとなくだが・・・「決めろ」ってことだろ?「言え」ってころだろ?それで、『今日はこういう風にエスコートして決めろ!produced by TAKERU!!!!』とか言ってすっごく長いメールよこしたんだろ?それしか考えられない。 『肩抜け』 はぁ??それだけ?というか、意味分からん! ぶー、ぶー、ぶー、・・・・ また健か・・・? 『わっりぃ!ミスった!えーっと”肩の力を抜け”ってこと!そんじゃ、ガンバ!』 ・・・泣きたくなってくるよ・・・。『ガンバ』って・・・。まぁ、ありがとうくらい言っとこう、ありがとう。メールは、あとで返すことにして、と。 「あとどれくらいかかりそう?」 「わかんないなぁ・・・。早く終わらせて、遊びに行きたいっ」 「おいおい・・・。遊びはいつでも出来るだろう?俺は何時でも構わんし」 「うー・・・」 「『勉強』を教えるのは一応、これで最後なんだから、焦らずじっくりやろうよ。どうせ同じことするなら、少しでも長くいたい」 本音がつい出てしまった。キョコに気持ちを悟られないだろうか? 「私も・・・」 ・・・なんだ、この甘いムードは・・・。キス・・・したいんですけど・・・。何気にキョコも俺に体をあずけてるし・・・。『やっちゃえ』『まだ勉強中よ』心の中で葛藤する。いつものことだけど・・・。『今日で勉強は最後』と思うと、胸が詰まる。切ないなぁ・・・。うーん・・・。 あと、30分くらいで終わりそうな感じだ。キョコはいつも通りのスピードで問題をこなしていく。さっき俺が言ったのがよほど効いてるのか?そんなに効果があるとは思えないけど・・・。まぁ、よかった。 「おわったー!」 「お疲れー」 残り30分が終わるのがどれだけ寂しかったか・・・。こういう時に限って時間ってどんどん過ぎていく。嫌だな、嫌だな。 「あぁ、終わっちゃいましたね・・・」 「そうだな・・・」 2人で浸る。寂しさを共有する。それでも、あんまり『寂しい』と感じない。何故だろう・・・。なんか思うんだ。『キョコとはずっと一緒そうだな』って・・・。俺だけの思い違い?でも、離れる気がしない。どこにいても、何かでつながっていそうな気がする・・・。 「せんせ?」 「うん?」 「打ち上げ、行こっ」 「あぁ、そうだな」 どこへ行くんだろう・・・?キョコに任せることにはしている。どこに行くかは知らない。でも、どこに行っても、キョコと一緒だから楽しい・・・。 「はい、せんせー」 「ん?」 キョコは俺に手を差し出した。 「最後くらい、手は握って下さいよぉー」 おねだりですか。ちょっと照れるだろ・・・。 「はいよー」 内心ドキドキしながら、キョコの手を握る。そして、歩き出す。どこに向かって・・・? 「そこ右です」 いちいち、エスコートしてくれる。いつも歩いてる駅前をどんどん通り抜けていく。夏休み最終日ということもあり、高校生くらいの子達が沢山いる。だいたい・・・カップルとかが多いな・・・。勿論、社会人っぽい人もいるわけで、俺らはどう見えるのか?多分・・・彼氏彼女?そう見えるといいな・・・。帰る時には・・・心と心でつながってるといいな・・・。 ──キョコも同じ想いでありますように・・・・ そう祈ってつないだ手を少し強く握り締めた。キョコの柔らかい手・・・。残暑が残ってるためか、この時間でも少し汗ばんでる。でも、心から暖かくなるような、気持ちが流れ込むような暖かさだ。気持ちいい、心地いい、ずっと握っていたい・・・。 「歩いてるだけで楽しいねっ!せーんせっ」 同じ想いだ・・・!何も言わなくても通じてる・・・!! 「せんせー」 「ん?」 キョコが足を止めた場所は、人気の少ない公園──いったい何を? |