ひと夏の家庭教師


『ひと夏の家庭教師』


第20話




 大学の講義始まる日──今日は、キョコの高校は休校日らしい。創立記念日だとか?というわけで、キョコが大学の講義を受けてみたいってことで、こっそり紛れ込むことになった。
 この講義『古典と現代の小説』だが、いかにも大学という感じの、段々の広い教室でやる。だから、大学外から講義を受けに来ても分からない。
 キョコはこの大学を受験するつもりらしい・・・?この講義は、健も晶も受講しているため、4人一緒にいる。一緒というか・・・同じ教室内にいるだけで、いつもは3人で受けていたが、キョコが来ることになって兄妹と俺とキョコ、別れて受講中──とは言っても離れて座っているというわけではない。
 「兄妹で仲良いな」
晶の事となると見境なくなる健。傍から見ても入り込めない世界を作り出してる気もする。2人でいる時なんか特に、だ。シスコン?って言うくらい、晶のことを気にかけていて、晶の現在の彼氏の小野君に迷惑かけてないといいのだが・・・。
「いいことですよ〜。兄弟がいないから羨ましいなって思います・・・」
「俺もいないけどな。兄貴か妹が欲しかった」
「私はお兄ちゃんかなぁ・・・。最初せんせーと会った時はお兄ちゃんって感じだったんだよぉ〜」
一人っ子なのに甘え上手。多分、ずっと欲しいと思っていたからだろうか?俺は特に甘えたいとか言う願望はないが、もし兄がいれば、結構甘えていたんではないかと思う。勿論、キョコにこうして甘えられて悪い気はしない。結構、兄肌(?)なのかな?
「ん?どうした?」
キョコが机に半分隠れるようにしている。
「その・・・」
キョコが目を向けた先には・・・。教授がこちらを睨み付けていた。少しうるさかったようだ。

 「──どうだった?」
いつも通り90分の講義が終わった。今日はこの講義が終われば何もないので、俺とキョコ、それに健と晶を加えた4人でどこかに遊びに行こうということになった(晶はもう1つあったのだが、出席をとらない講義だからとサボったようだ)。
「難しいような・・・。でも、面白いって思ったー」
「ならよかった。って言っても、いつもはそんなに面白くないな」
「え?そうなの?」
本当に楽しかったようだ。初めての経験だし、特に意味もないのにノートを一生懸命とっていた(その前にちゃんと勉強する気で来ていたのに驚いた)。
俺は別にいつも通りにしていた。キョコは一生懸命ノートとってるから、あまり話しかけないようにしていたし、健のところは最初に言ったとおり。キョコがいる分ちょっと楽しかったかな。
「これからどこ行くんですか?」
「健に任せてる」
勿論、分かっている。健が行くと言えば、
「ほら、ついたぞ」
「健くん?」
「はい?」
「お前は実の妹を何しようというわけだ?」
目の前には『LOVE』と書かれた建物。
「お兄ちゃん・・・」
晶も呆れた様子で健の肩を小突く。キョコは?
「あ、その、え、あ、うえ?ほ、えあ・・・・・・」
誰の目にも明らかに動揺していた。
「あ、キョコちゃんは初めてなのか?こゆとこ」
「いや・・・その・・・」
「健、やめてやれ」
「はーいはい。分かってますよーだ」
分かっててあえて聞くこいつが時々むかつく。キョコがラブホテルなんか使ったことがないのは分かってるんだ。その、なんていうか、キョコの家には誰もいないわけだから、そこを使っていたということだ。俺はまだだけど・・・。
 俺がキョコを抱くことになったら、ここでするのだろうか?やっぱりキョコの所で、となるのだろうか?多分、キョコの方が落ち着くだろう・・・。考えてたら、どこかが元気になってくるんだが。キョコにはまだ見られたくない。
「ん?」
健が耳打ちしてきた。
「て・・・てめぇ」
「まぁ、ガンバレや」
俺の手に何かを握らせると、晶を連れて行ってしまった。手をあけると・・・、
「1・・・2・・・4千円?」
「あ、私にも・・・4千円・・・」
晶が渡してくれたらしい。これは、なんだ?
「キョコ・・・さっきな、健が・・・」
「・・・えっ!!!」
もう恥ずかしくてしょうがないという風に顔を赤らめるキョコ。俺も言ってて恥ずかしい。
「思う存分抱いて来い」
って・・・・・・。

「・・・入るのか?」
「せ、せんせーが決めてよ・・・」
「金・・・もらっちゃったしな・・・」
「わ、私はちゃんと返しますよ・・・」
「つ・・・使うってこと・・・だよな」
陳腐な会話が続く。というか、こんなホテルの目の前で立ち止まっている方がよっぽど怪しい。早く決めなければ・・・。
「う・・ん・・・」
目の前にすると決心が揺れる。勿論、利用したことがないわけではないが、来るつもりで来ていたし、料金も自分で払っていた。健たちから演出されて・・・なんて、嫌だ。
「キョコ」
「は、はいっ!」
緊張しすぎだ。俺も、やっとのことでしゃべってる。もう、普通に声なんて出せない・・・。そっと、キョコに耳へ・・・。
「こういうところじゃなくて、落ち着くところ行こう」
耳元で囁いた。続けて・・・、
「キョコの家とか・・・あそこが一番落ち着く・・・」
「えっ・・・」
照れているのか?さっきの恥ずかしさとは違う。嬉しそうだ。
「あの・・・ね。せんせー」
「うん?」
キョコも俺の耳へ・・・。
「『準備』してあるんだよぉ」
そして、ちょっと後ろにピョコンと跳ぶと、「せんせーのために・・・ねっ」
「行こっか」
自分から手をとって歩き始めた。すっと気が楽になった。キョコも同じだったのだろう。あのホテルの前の独特な雰囲気に耐えられなくなった・・・というのが正しい。もうここからはいつものペースだ。
 ・・・いつもの、とは考えてない。『準備』が何かが気になるが、恐らくそのようになるんだろう。・・・そのように?キョコもそのように・・・、そのつもりで?
 期待に胸が膨らむ。と、同時に、変な鼓動が脈打つ。元々、そんなに恋愛に熱くなる方ではない。雰囲気がよければ事を成して、そして、何もなかったように日常に戻る。それを繰り返し繰り返し・・・。詳しいことは覚えてない。相手の名前と、どんな顔だったか、声だったか、どういう声で喘いでたか・・・。どこへ行ったかだとか、そういうのはほとんど薄い。もしかしたら、セックスフレンド?って健に突っ込まれたくらい、カラダを求め合ったことくらいしか覚えてない気がする・・・。ちゃんと『彼女』としていたが、しばらくたつと、会うとほとんど、お互いを求めてばかりいたと思う。
 キョコに話したこともある。昔、付き合ったことがある女の事。こんなことがあった・・・って。それでもキョコはこう言った。
「私は、せんせーの事好きだから」
それだけ言うと、もう次の話に移っていた。この言葉でじゅうぶんだった。幸せだ。

─あっ・・・
っという間に、キョコの部屋まで来た。特に何ともない会話をして、電車に乗った。その間に母親には、今夜は帰らないかもしれない旨を伝えた。もう、何が起こるかは想像できる。もう、キョコを抱くことになろうということは、自然の成り行きだろう。
 これから、階段を上がり(3階)、キョコの部屋に行き、そして・・・、夏休みにはよく見ていたあの・・・ベッドで・・・。
「入り・・・ましょう」
キョコがそっとドアを空けてくれた。そこには・・・・・・




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