ひと夏の家庭教師


『ひと夏の家庭教師』


第25話




 「うめー・・・」
キョコが寝てしまったあとに、こっそりと買ってきておいたチューハイを飲む。そろそろ夕飯も出来上がる頃。食べる前に飲むのも変だが、なんか落ち着かなかったので手を出してしまった。キョコはまだ寝ている。起こそうか?いや、まだ熱もあるみたいだし、起きるまで待とうか・・・。
「何が『うめー』なのぉ???」
実は、キョコは起きていた。
「うおっ?!お、起きてたのか」
「缶を置く音?みたいなのがして、目が覚めちゃった」
「ああー・・・、悪い」
「ううん。でも、いつの間に・・・」
「さっき、買出し行った時に安かったから」
「せんせー、『自分からは飲まない』って言ってなかった?」
「まあ、チューハイくらいなら、たまに飲むけどな」
「それだけじゃつまらないでしょ?ちょっと・・・、冷蔵庫の隣の棚に」
「あ?ああ、俺が取って来る」
何があるのだろう?そういえば、この棚の中を見たことはなかった。大方、コーヒーだとかお茶とかの素があるんだろうが・・・。

って!なんだこの・・・おつまみの山は・・・。
「えへ」
いや、違うって!なんでこんなにあるんだよ。
「結構、お酒とか飲んでるんだよぉ」
だからって、つまみ多すぎだろ。
「高校の友達とかがここで飲んだりしてるからなぁ・・・」
あんまり理由になってないぞ。というか、最近のガキ供は・・・。俺だって初めて飲んだのは高校卒業した時にやった打ち上げみたいなので、だ。
 聴くと、月に一回くらいこの部屋が飲み会の会場になるらしい。週末とかになるとみんなで酒とかを持ち寄ったりして結構派手にやってるとか。その時に買ったものの残りだとか、キョコもたまに一人で飲んだりするので、そのために買ったものだとか。
 ・・・ということは?!
・・・あった・・・。奥のほうにチューハイだとかその他酒類がずらーっと・・・。今の今まで気付かなかった。
「せんせーと付き合い始めてからは飲んでないよ。・・・1人ではね」
まあ、友達が来て飲む事はあったが、キョコだけは酒には手を出していないらしい。
 それはいいとして驚きだ。キョコが酒をねぇ・・・。ビールはあまり好きではないが、チューハイだとか、梅酒?その系統は高校入ってから飲んでいたらしい。どういう女子高生なんだ・・・。
「今度一緒に飲もうね」
じゃないって!・・・まあ、酔ったキョコも可愛いんだろうなあ・・・。
「私、酔ったらすっごく笑っちゃうの」
「あー、女の子って多いよな。笑い上戸になる子」
「せんせーが今まで付き合ってきた子も?」
「あー、どうだろ。あんまり付き合った子とは飲まなかったな」
「へぇ〜・・・」
「同じ学部の子とかのコンパとか飲み会で飲む子には多いな。めっちゃ笑って酔ってる癖に、どんどん酒いっちゃう子」
「へぇ〜・・・」
「健とか、そういう子を送るって言って、次の日、話聴くと『やっちゃった』ってな」
「あはははっ。ありえるー」
「昔は俺も飲み会で一緒に飲んだ子を送ってそれがキッカケで付き合ったりってのもあったな」
「そうなんだぁー」
もうだいぶ楽になったみたいだな。そろそろ飯でも食うか。
「何作ったの?」
「にくじゃが」
「おおおおおお」
「あー、そんなに騒ぐと気分悪くなるぞ。今、準備してくるから、待っとけ」
「はぁ〜いっ」
そんなに食べないだろう。だから、量は少なめに作っている。
「はい、口あけて」
「あーん」
「どう?あまり自信はないけど」
しっかり噛んでるみたいだ。もぐもぐ・・・聴こえる。
「おいしい〜っ!!」
どうしたの?ってくらい元気になったみたいだ。そんなに自信はない。母親の手伝いをした程度の記憶で作った。まあ、煮込みものだから手間なんてかからないし、ある程度味付けによるだろう。味見・・・してないけど、なんとかうまくいったみたいだ。
「せんせーも食べて食べて」
すっかり元気を取り戻している。安心した。この笑顔が見たいが為に講義を休んだと言ってもおかしくないくらい嬉しかった。
 この笑顔を『必要だ』と感じた。『好き』以上にそう感じた。
「あ・・・、ほんとだ。これ、イケるな」
「せんせー料理うまいじゃん!これならいつでもお・・・お婿さん?に行けるよ!」
「アホ言え。俺は結婚しても飯は作らんぞ」
「でも、お嫁さんがこうやって寝込んじゃったりしたら、ご飯どうするの?」
「そういう時は・・・」
どうしよう?どうする?むしろ、なんでこういう話題になってるのかを突っ込みたい。えっと、結婚して、普段は嫁さんが全面的に家事やってて?それで、ある日、体調不良で寝込んでしまった・・・と?そういう時にはどうするんだ?ってことだから・・・。
「隣のおばさんに作ってもらう」
「駄目だよー!隣がおばさんじゃなかったら?」
どういう意味だよ・・・。うーん・・・。
「向かいのおばさんに作ってもらう」
「駄目!向かいのおばさんは旦那さんと旅行出かけていません!」
状況設定が細かいな・・・。つまり、周りには代わりにやってくれそうな人物はいないってことな。
「娘にやらせる」
「駄目ー!!まだ子供できてません」
家族計画まで微妙に頭にあるのか?そこまで言われたら・・・、
「なら、あーっ!やればいいんだろ、俺がー!」
簡単に言えばめんどくさいんだ。今日ここまでやったのも健からすれば「ありえねえ!」状況である。俺だってこんなことしたの初めてだ。
「というか、お前随分元気になったな」
「話をそらすなー!・・・って」
額に手を当ててみる。
「あー、熱全然ないな。熱下がったみたいだ」
もう強引でいいや。元気になったんだ。よかった。あとは、半日くらい安静にしてれば完治だ。
「ほら、食った食った」
わざと急かす。でも、口に運んでやる事は忘れない。
「おいひい」
さっきからそれしか言ってない。
「せんせー」
「ん?」
「食べないの?」
「いや、キョコが先・・・って、もう空っぽか」
「あのね、せんせー」
「うん?」
「私・・・結構食べちゃうの」
要約します。大食い。
「足りない?」
「うんうん。それに今日そんなに食べてないから・・・」
恥ずかしげに言うが、自分から俺の分を食べんとする勢いもありそうだ。
「多めに作ってあるから、それ今入れて持ってくる。待ってろ」
「はーい」
・・・結局、残りの分もほとんどキョコが食べてしまい、次の日の午後から学校に行った。
 あれだけ食えば・・・、というか普段どれだけ食ってるのだろう・・・と疑問が残った。俺といるときも、それなりに食べていた気がするが、気を使ってかなんかであまり食べていなかったのか?(キョコ的に『あまり』)



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