ひと夏の家庭教師


『ひと夏の家庭教師』


第26話




 じー────・・・
「ん?何?」
じー───・・・
「どうしたの?せんせー」
じー───・・・


要約します。

じー───・・・(「こいつは俺のどこが好きなんだろう・・・」)
「ん?何?」
じー───・・・(「前に聴いたっけ?どうだっけ・・・」)
「どうしたの?せんせー」
じー───・・・(「うーーーーーん・・・」)

ちゃちな悩みである。でも、気になる。どこをどう迷って俺が・・・。っていいんだけどね(前もように悩んだかもしれないが)
「いや、そろそろ今年も終わるなーって」
「それだけで私見てたの?」
「まあ、それだけっちゃそれだけだけど」
「おいおいおい」
「まあ、いいから。この宿題片付けて」
「もちろん、終わったあとは・・・ね?」
最近はキョコのほうから誘ってくるようになった。積極的に。極めて積極的に、だ。
 だから最近は毎日のように・・・コホン。
それはそうと、あと2週間くらいでクリスマスだ。バイトも少しずつ忙しくなってきた。それなのに、最近では1時間でも時間があれば・・・会ってる。講義と講義の合間だとか、そんな短い時間でも会ってる。会っては・・・。
 ここ1週間そこらで無駄に経験が増えた気がする・・・。その・・・テクニックだとか・・・。
 そんなのはいいから!
「最近、ほんと、キョコって誘うようになったな」
「えへ」
・・・これだ。可愛いからさ。もう・・・。

──こんな流れでいつも・・・やってしまう・・・。

「あ、わりい。ちょっと用事あるから、出るわ」
「ああ、はーい」
ちゅ・・・
新婚夫婦さながらのやりとりというか・・・、ノロケというか・・・。ノロケちゃうんだけど。
 これ、話だけ聴いてると「やり逃げ」と思われてもしょうがない場面であることは間違いない。短時間だけ会う→事を済ます→すぐ去る。この流れ。変だ・・・。
それでも邪魔するなって感じで。ほっとけって感じで。まあ誰も気にしてる様子はないからいいのだが・・・。
 最近、ずっと眠気がとれないのはそのせいだろう。・・・言えないよな・・・。あの笑顔見てたら・・・・。
バイトでもよく言われるさ。「お前毎日1人で頑張りすぎだって」・・・そんなに彼女いないように見えますか。ああ、そうですか。あなたもいないでしょうに!・・・って先輩だけどね、その人。

 ─バイトにて。

 「おつかれー。ってまた、お前眠そうだな」
「土田さん・・・」
「また1人でやっ・・・」
「土田さーん!」
「ああ、もう分かった分かった。疲れが溜まってるんだろ」
「そうですねぇ・・・」
「この時期、割とみんな予定入れないんだけど、お前はここんとこずっと入ってるし。あのおっさんも『頑張ってるなー』って言ってたんだ」
『おっさん』というのは、雇ってもらってる派遣会社の人である。その人が一応、派遣の手配をしてくれたり、足がない人には車を出してくれてる。この『土田』という人は、この派遣会社に登録して結構長い人で、だいたい26歳かそれくらいの年だったと思う。飯おごってくれたり、色々と世話をやいてくれるお兄さんみたいな人だ。
「そうなんですか。そりゃ、給料弾んでもらわないと!」
「だー!お前はまだ始めて1ヶ月そこらだろうが。昇給対象外だ」
「ええ・・・。こんなに頑張ってるのに・・・」
「つっても週1から週2,3だろうが」
「土田さんはほとんど毎日ですもんね」
「ああ、どうせフリーターさ」
聴こえはいいが、要約すると『無職』。何もすることがなくここ2,3年ずっとこの派遣会社の派遣のバイトで稼いでいる。そのおかげで随分と昇給が進んでるらしい。いいことなのか悪いことなのか・・・。
 本人はそれで楽しんでるみたいだからそれでいいのだが、彼の悩みは別にある。
「華の大学生なんだから、女の1人や2人紹介してくれてもいいだろ」
彼女が数年いない、ということ。同じ派遣先になるたびに同じ事を愚痴ってくれる。休憩時間のたびにこれだから・・・。聴いててだるくなってくる。俺だってそんなに女の子の知り合いがいるわけじゃないから、紹介も何もないって言ってるのに・・・。それならナンパでもすればいいじゃないですかって言うと、いっつも、
「あー、俺、そういうのやらないたちだから」
綺麗にかわそうとする。要するに、勇気がないってことだろうな大方。
「だから毎回言ってるように、女の子の知り合い少ない上に、そんなに仲良くないから、紹介ってレベルじゃないんですってば・・・」
こう言えば、その日は同じ話題は持ってこないのだが、その次に同じ派遣先になった場合には同じやりとりが繰り返される。
「そういえば、どこがよくて、あの子はお前と付き合ってるんだろうなあ・・・」
「え」
何の話だ??




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