年も明けて。いや、その前に、年末には本当に土田さんと会ってきた。ただ・・・、 「キョコには2週間は会ってないな・・・」 メールも電話も余りしていない。キョコから電話があることはあったけど他愛のない会話をしただけだった。 会うのが気まずい。クリスマスに会う約束を自分から振っておきながらオジャンにしたこと。それ以来、本当に連絡取りづらい。メールが来ても感情が分からない無難な、素っ気無いともとれる反応をしてしまった。 何よりも反省すべきなのは、電話もこっちから早めに切り上げるように切ってしまうこと。切った後に・・・凄く後悔してしまう自分・・・。ただ気まずい以外にも、もやもやとしたものがあるのは明確だ。もやもやと・・・、それと・・・ 自信がない・・・ キョコのことを受け止める自信がない。これから全てを見ていく自信がない。昔の恋人にキョコが監禁されかけた事件やら、そんなことがついこの間の出来事なのに遠く感じる。時間が過ぎていくのが早すぎて、自分だけでいっぱいいっぱいになっている。時に自分さえも見れていないときがある。 『今を生きている』 そういえばかっこうはいいが、ろくでなしだともとれる。やっぱり先は考えないといけない。自分自身の『自我』がしっかりしてない人間なんかいつか飽きられる。 そう思うと・・・、不安だけが俺の全てを締め付けた。こういうときにさ・・・キョコと、一緒にいてくれる人と納得が行くまで話し合うべきなんだろうけど・・・。 健・・・?そうだ、健に話そう・・・。この頃、何もかも目まぐるしくて全然連絡を取っていなかった。 「電話すると長くなりそうだな・・・」 とりあえずは、久しぶりに健の家に行くことにした。 ──健の家。 「・・・で、この恋愛キングの俺に何か用かい?」 「帰ります」 「いや、待てって!放置かYO!」 「帰ります」 「突っ込めって!」 「いや、俺はただ真面目に相談に乗ってくれる人を期待してたんだが」 「それなら弁護士にでも電話相談所にでも相談しやがれってんだ」 「それの金くれるんならいきますよ」 「で、何で悩んでるんだい?」 「なるほど」 今度はちゃんと相談に乗ってくれた。最初の漫才が軽く時間の無駄に思えた、が、時間はじゅうぶんあるからとことん話そう。 「・・・と、俺から一言言っておきたい」 「うん?」 「お前、この2週間以上の間、キョコちゃんの気持ちを考えたことあるか?」 「え」 「一回でも自分自身のことから離れてキョコちゃんの気持ちになったことがあるか?って言ってるんだ」 「あ・・・、いや・・・」 「まぁ、話を聴く限りじゃ、自分の気持ちでいっぱいいっぱいだったんだろうな」 「あ、ああ・・・」 健の視線が痛い。言葉が痛い。突き刺さるように。 「そんなんじゃ、うまくいくわけないだろ」 「うん・・・」 「お前がこの数週間やってることは大罪に値するものだ。被害者はキョコちゃん。容疑者はお前。立会人は俺」 ・・・いや、何で立ち会ってんだよ。 「盛り上がる弁論!半泣き顔のキョコちゃん!ただ立ち尽くすだけのお前・・・」 「帰ります」 「こっからなのに・・・!」 もうじゅうぶんなくらい分かったよ、健。と、心で呟いて健の家を後にした。ごめん、放置して。 そして、ありがとう。 ──やっぱりちゃんと会って話さなきゃダメだ。 健の言ったとおりだ。自分の気持ちに精一杯でキョコの気持ちをこれっぽっちも考えていなかった。痛い。 今すぐ会いたい。キョコに会いたい。会って・・・まず、謝りたい・・・。 「ごめん」って・・・ 何もかも、全てを謝りたい。キョコはキョトンとするだろうけど、俺の中でも決着をつけたい。 ここまで考えて、ふと思った。キョコは何故・・・「会いたい」と言わないんだろう・・・。今初めて疑問になった。あれだけ毎日のように会っては・・・していたのに、あれ以来、メールは1日に何通か交わすものの「会いたい」と言うメールは1通もなかった。それを仄めかす内容もなかった、電話でも。 ・・・今から会いに行こうか?今日は何をしているんだろう・・・。まだ今日はメールも電話も交わしていない。初詣も行ってないなそういえば・・・。俺は大学の友達と一緒に行った。健も含めた数人で。キョコからはメールがあった。キョコも友達と一緒に行ったそうだ。結局、それから数通のメールしかしていない。 「会いたい・・・」何度そう言おうとしたか。メールを見る度に切なくなる。何でこんなことになったんだろう・・・。キョコが寂しがっているのは明白じゃないか・・・。俺はキョコを信じる。きっとキョコも俺を信じてくれている。それを信じる。 ──結局、メールも電話もしないまま慣れた駅に降り立った。アポなしだが・・・。今どこにいるか分からない。家にいなかったら置手紙でもしていこう。幸いメモ帳とペンを持っていた。「これ見たら連絡ください」シンプルなものでいいだろう。念のために先に書いておく。 意を決してキョコの住むアパートへ足を向けた。重い、重い足だ。 |