ひと夏の家庭教師



『ひと夏の家庭教師』


第7話






・・・で、なんで健がナンパした女子高生がよりによって知り合いなんだ?キョコなんだ?
「へぇー、キョコちゃんねー!かわいいじゃないかー。聴いたとおり、いや、それ以上だな!」
「い、いやぁ〜」
俺が見たところ、気まずそうに照れる。いつも元気印(死語だろうな)のキョコもこの時ばかりはどうしていいか分からなさそうだ。というか、いきなりすぎてビックリしたままだろう。俺もどうしたらいいか分からない。一応、友達の真里(?)というらしい、名前は覚えてなかったが──と話をしている。キョコと話したいのだが、健が独占してしまっていて、会話に入れない。
「何って名前なの?」
ボーっとしていた。真里と話していても上の空状態だった。
「あー一応・・・」
「キョコも言ってるし、『せんせー』でいいかな」
クスクス笑いながら言う。
「任せる」
「あはははは。その素のキャラが面白いね。キョコの言ったとおり」
「あー、よく言われる」
至って素なんだが、何故か他人には面白く見えるらしい。どこが面白いのやら・・・。
「うちの彼氏さんとは大違い。すーぐ本気で怒るんだからあいつ」
誰が聞いたよ彼氏のこと。暇だからいいけど・・・。チラッとキョコに目をやる。・・・なんだ、普通に楽しそうに話してるじゃないか。心配(?)する必要なかったな、うん。
「なーに、違う方向見てるの?」
「あ、いや、なんでもない。そうそう、時間、時間見てたん」
「そっちには『せんせー』のよくご存知の女子高生と『せんせー』のお友達しかいないみたいだけど?」
「ええ、い、ああ?」
窓際席だった。



 「これからカラオケでも行くかー!」
健の提案である。「女子高生とならカラオケが一番!」と健氏は語る。俺も断る理由がないので、ついていく。なんだか、Wデートみたいな感じだな。多分、健はそのつもりなんだろうが・・・。

「そういえば今日彼氏は?」
真里とペアというのが決定的になってきている。キョコと話したいのに・・・。
「バイト。あいつ、いっつも『バイトが忙しくて会えない』って言うの!そういうときにナンパとかあったら、発散代わりについてくね」
そこまで怒ってる様子はないけど、内心辛いものがあるだろう。ちょっと同感。
「勿論、たまに寝ることもあるけど」
「ぶっ!」
噴出してしまった!それって浮気だろ!
「まーさかー、寝たって言っても一度だけよ、浮気は」
「そ、それでも一度でもしたなら・・・」
「まー、そん時バレてねー、かなりウルサク言われたし、叩かれたし。だから懲りた。今は遊ぶくらいじゃない?こうやって」
「そ、そっか」
「でも、やっぱり辛いねー。触れたい人は言い訳作って会えないって言うし、どうでもいいナンパさんには幾らでも誘われるし。はー困った困った」
それって半分は原因君だろって突っ込みたくなったが、やめておこう。第3者が首を突っ込む問題ではない、が、
「久しぶりに浮気しちゃおーかなー」
「はぁ?!」
すると、耳元で囁いた、
「『せんせー』とっ」
何も言えなかった。というか、動けなかった。
「面白いなーせんせーは」
ちょっとだけキョコ以外の人に『せんせー』と呼ばれることに違和感がを覚える。当たり前だが、この真里という子の『せんせー』ではないのだから。それ以外もありそうだが、分からない。
「あら、何か迷惑そうだねー。私じゃ不満かしら」
今気付いた。この子の高慢なところがちょっと苦手だ。何が言いたいのか時に全然分からない。キョコは、何でもはっきり言うから、好感も持てるし・・・って良く考えたら、この真里って子、健の好みじゃないのか?なのに何故キョコにそんなに突っ込む。というか何で俺はキョコの事ばかり考えている。まさかそれを知ってこの真里は、色々突っ込んでるのか?どうなんだろう・・・。
「何ぼ〜〜っとしてるんですかーせんせー!」
「あ、いや、なんでもない」
「まさかー」
まさか、ってキョコのこと考えてたのバレた?いや、バレててもおかしくないが、場には、キョコ本人もいる、健もいる。・・・・いや、健は半分くらい知ってるだろうが。

この後、カラオケで何を歌うか、の話になる。俺は前も言ったがそこまで率先して歌うほうではない。聴いてる事が多い。でも、順番で回ってくることがあるが、そういう時は割りと辺り触りの無い曲を歌う。無難なってこと。曲のレパートリーは広くなく狭くなく、と言ったところ。
「せんせー」
キョコだ。今日初めて会話をする気がする。
「ちょっと、抜け出さない?」
今は、健が熱唱していて、真里が聴いている。次は真里の番らしいから、大丈夫だろう。俺は曲を入れていない。
 歌ってる健に目で合図して、外に出る。気付いたかどうかは確認しなくてもいいだろう。奴は歌に必死だ。

「どうした?急に呼び出して」
「今からウチに来ません?」
「え・・・?」
するとキョコは、俺の手をとって歩き出した。





第8話